中学生の頃、私は重度の中二病を患っていました。
どの系の中二病かというと、自作の鎖帷子(くさりかたびら)を学ランの下に着て学校に行っていたとか(笑い飯の西田さん)、どんなゴミでも焼却炉で焼く「焼却炉の魔術師」だったとか(華丸大吉の大吉さん)、そういう妄想系の笑える類のものではありません。
dic.pixiv.net 「焼却炉の魔術師」についてはこちらをご覧ください。
私は学校の意見大会に出て、「意見大会で主張されるような言説はみな偽善か嘘っぱちなのでよくよく考えてみてほしい」とか全校生徒にしれっと訴えかけるような、全く可愛げのない増田系中二病でした。
ちなみに、あだ名は小学校からの持ち上がりで8年間ほぼずっと変わらず、ほとんど全員の同級生から「ばばあ」「ばあちゃん」と呼ばれていました。
anond.hatelabo.jp 私は若干9歳とかですでに「ババア」になれていたのだがイタイ
本当はすごく小心者でヘタレでお調子者の性格だったのですが、強い自己暗示によって「ニヒルで達観したクラスの最長老」キャラを演じ切っていたので、自分は格上のキレ者でみんなに尊敬されてしかるべきだと信じて疑わなかったのです(イタイね!)。
そんな尖ったナイフ(でも刺すと刃がひっこむやつ)みたいな自分でも、おもしろおかしく生きて行けたのは、単純にクラスメイトがみんないい奴だったおかげです。
そんな、なんの変哲もない思い出話を、これからちょこちょこ書いていくことにしました。
今回の登場人物紹介
私(ばばあ) 自分は神であると疑わない中二病女子。本当は小心者。
スドーさん キラキラ女子。思いつきで遊びを企て、周囲を巻き込み、即実行にうつすのが得意。スクールカースト最上位。
ロミ山 典型的なサブカル女子。ビレバンと美味しいケーキと洋楽をこよなく愛する女。ミスチルは売れる前から聞いていたけど、売れたらもう聞かない。
担任T 熱血教師。若かった。変なクラスメイトに日々振り回される苦労人。
中学生の頃、誕生日というのは格別におもしろい日でした。
その日はクラスメイトのスドーさんの15回目の誕生日でした。私は前々からこの日のために、最適な誕生日プレゼントを画策してきました。いったい、何をあげたらあいつの度肝を抜かさせてやれるだろうかと。
誤解を恐れずに言うならば、「他人の誕生日」というのは自分勝手におもしろがるには最高のイベントでした。なけなしのこづかいの中から、なんの罪悪感も抱かずに「誰かのため」にムダ金をはたいて買い物ができますし、人にあげちゃうものなので、買った後に後悔するリスクもありません。しかも受け手は祝福された以上は、どんなヘンテコなものでも喜んで受け取ってくれるのです!(え?イミワカランて?)
お金の使い方がわからない小心者の中学生(私)にとって、こんなに楽しく買い物でき、なおかつその責任をすべて他人になすりつけて良いイベントはなかったのです。つまり、「サプライズ」の皮をかぶった公然たる「善意の押し付けドッキリ状態」なのですよ。
ましてや相手はスクールカーストの頂点に君臨するキラキラ女子のスドーさんですよ?この機会にいかに日頃感じているコンプレックスの泥を、あのキラキラに投げつけて差し上げようかと、私はこの日のために考えに考え尽くしていたわけです。
www.mamazero.com スドーさんとロミ山の出てくる記事
しかし、スドーさんのキラキラ度は私のはるか斜め上を行っていた
そこで私が用意したプレゼントがこちらです。中国雑貨のブリキの馬車のゼンマイおもちゃ(なぜか大量のあひるの顔が窓から出ているやつ)。
(※上海タイムズという中国雑貨屋さんで購入しました。ガチでこういう色合いです)
おもちゃ雑貨とはいえ、そのサイズ感とクオリティが規格外すぎる、おおよそ「可愛い」とは無縁のシロモノです。帰宅後に開けてみたスドーさんが「いらねーーー!!」とびっくり仰天するのは間違いありません。コレの要らなさ加減にさぞかしお困りになるがいいのさ!
そんな彼女の困惑を思い、ほくそ笑みながら登校した私は教室に入るなりおもむろにプレゼントをスドーさんに謙譲いたしました。
私「これ、誕生日だから。」(←あくまでもクールに)
するとどうでしょう。スドーさんは、私の想像をはるかに超える行動に打って出たのです。
S「ありがとう。嬉しい。…これって、ここで開けてもいい?」
(マジ!?)
あと数分で朝のホームルームが始まりそうなこの教室で、先生が今にもやってきそうなこの教室で、あのシロモノをお天道様の下に晒そうと言うのです。
(いやいやいやいや…今開けるとかマジ勘弁、私が恥ずかしいんですけど怒られそうなんですけど周りからもセンス疑われるんですけど)
という動揺はひた隠しにしてあくまでもクールを装う私。
私「え?今?ここで開けちゃうの?家で一人で楽しんでよ」(ワナワナ)
ワナワナと制する声も届かず、ワシャワシャと迷いもなく開けるスドーさん。
S「なにこれー!?」
一瞬、困惑で表情を曇らせました。修羅場を予感する私!
※ちなみに中国雑貨のクオリティはこんな感じです。
が、次の瞬間、みるみるうちに喜びで顔を輝かせたスドーさんは、今度は私の想像の斜め上をいく行動にはしったのでした。
S「コレ、走らせリヤ。」
私「ここで!?」
今にも先生がやってきて「静かにしろ〜席につけ〜」とか言いだしそうなこの教室で、このやたらゴチャゴチャした怪しげなおもちゃを、走らせるだとお?
ちなみに「走らせリヤ」というのは私の田舎の方言で、「〇〇しよう」というのを「〇〇しリヤ」「〇〇やリヤ」と言います。(これでもキラキラ女子の発言です)
S「走らせリヤ、走らせリヤ!」
とすっかり嬉しくなっってしまったスドーさんは教室の後ろに向かって走り出しました。そしてぜんまいを巻くと、すかさずそのうさんくさいシロモノを発車させました!馬車は凄い音を立てながら教室の真ん中を疾走していきます。
「ガーガーガー、ジジジジ、ガーガー、ジジジジ、ガーガー」
(ヤベーヤベーこれじゃ先生に即バレみんなにもバカにされるよヤベーよ!)
私は内心ヒヤヒヤしていましたが、想像以上の音と動きだったのでクラス中が大爆笑。
みんな「なにこれ〜!!なんのためのおもちゃだよ、こんなの絶対いらねーーー!!」
そこにさっそうと担任の先生が登場です。
担任T「みなさん?何をしているんですか?」
ナイスタイミングでやってきた担任T先生は、不可解な表情でその、ガーガー走る馬車を見下ろしていました。
S「クラタさんに誕生日プレゼントでもらったんですよ。」
嬉々として説明するスドーさん。
(終わった…先生にもクラスメイトにも、これが私のセンスのすべてであることがバレたわ…)
内心、落胆する私。
担任T「そうですか。でも学校におもちゃを持ってくるのはルール違反ですよ?ダメです」
とこのバカバカしいおもちゃを持ってきたことを厳しく諭される私。
先生はガチャガチャいう馬車をつかみ、拾いあげました。その振動でアヒルの首がゆらゆらゆれています。一挙に先生の顔が青冷めるのがわかりました。
担任T「こっ…これは先生が預かっておきます…。みんな席について。ホームルームはじめますよ。日直さんお願いします。」
得体のしれないおもちゃを片手にホームルームをとり仕切り始める先生。でもみんなはその片手にわしづかみされたあひるのゆらゆらと揺れている頭にしか注視できないシュールな状況。
S「あの〜、先生、そのおもちゃ…どうするんですかね?」
笑いをこらえかねたスドーさんが質問しますと
担任T「後で職員室に取りに来なさい。」
と答える先生。心配になった私は思わず聞き返しました。
私「え・・・?先生ソレ、職員室まではだかで持って行くの・・・?袋とかに入れましょうか?」
こんなものを持ち歩いていたら、先生のセンスも疑われてしまいますよ。
担任T「いいえ。このままでいいから、もう席に着きなさい。」
とだけ言い、先生はその馬車を片手にそのまま朝のホームルームを進行しました。戒めのためにおもちゃをさらしてくれていたようでしたが、私達はむしろそれが滑稽で可笑しくてしょうがありませんでした。
あの馬車、たぶん、誰もいらないから取りに行かないよな?
案の定、誰もそれを職員室に引き取りには行きませんでした。
つまり、その愉快な見た目の馬車は一日中、先生のデスクの上に安置されていました。(先生ごめんなさい)仕方なく放課後になって私が職員室まで取りに行くと、先生は呆れはてた表情で、「もう持って来るんじゃないぞ…」と狼狽していました。(先生本当にごめんなさい)
しかし、馬車を取り返して教室に戻ると、今度はロミ山がさスドーさんに誕生日プレゼントを謙譲しているところでした。
R「誕生日、おめでとう!!」
中味はなんと、ケーキ(生もの)でした。
R「このケーキ屋さん、すごく美味しいらしくてわざわざ買ってきたんだよ。」
S「ありがとう。嬉しい。」
すっかり嬉しくなってしまったスドーさんは、やっぱりこういいました。
S「これ、ここで食べりや」
かくして私は、たった今不要物を持ち込んで先生に怒られてきたばかりだというのに、今度は学校で誕生日パーティーをするためのフォークと皿とジュースとろうそくの火をつけるライターを取りに、家まで猛ダッシュしたのでした。
おわります
誰もが欲しがらなかったプレゼントでしたが、本人にはたいそう楽しんでいただけたようでよかったです。クラスメイトがみんないいやつだったというのは私の記憶違いのようでした。本当はみんないかれたやつばかりでしたね。
この担任T先生はとてもいい教師でしたので、3年間ずっと変わらず、根気よく、私たちを熱血指導してくださいました。先生本当にごめんなさい。(今回の悪行はまだほんの一部にすぎません)
くだんのおもちゃですが、ケーキをたいらげたあと、スドーさんがちゃんと家に持って帰って部屋に飾ってくれましたとさ。
※中二病日記の内容は実在する人物・出来事をモデルにデフォルメしたフィクションです。実録ではありませんので、実在する踊り子さんには手斧を投げぬようお願いします。ツッコミはコメント欄にお願いします。